今回は、オーストラリアで年に1回各都市で開催される“Eisteddfod”(アイステッドフォッド)を記事にします。
オーストラリア在住で子供がピアノ、その他楽器、或いはダンスを習い始めると先生から「アイステッドフォッドに出てみよう!」と勧められると思います。
我が息子は、4歳になったばかりの頃にピアノを習い始めました。
その当時、人口5,000人わずかの夫の親族が住む田舎町に引っ越したばかり。
運良く、隣町にピアノ専門のベテラン先生が大都市の音楽教師を引退して地元に帰ってきて、個人のピアノ・ヴァイオリン教室をスタートさせた時でした。
この先生に出会えたおかげで、「アイステッドフォッド」と「AMEB(エィエムイービー・略称エイメブ)・試験」の存在を知ることになりました。
そして、この2つがオーストラリアでは楽器やダンスを習得する子供にとって、大事な通過点かつ経験になる事も痛感。
息子は、全く予知しなかった「音楽の才能」に目覚め、Year6の時に音楽と学業兼用の「奨学金制度」のある都市の私立高校へ転校しました。
この背景にはいろいろ音楽関係でお世話になった方々の推薦もありますが、5歳から参加して得た「アイステッドフォッド」の功績と、「AMEB(試験)」での資格級証明が道を切り開いてくれたのです。(ピアノ、ヴァイオリン、チェロとギター)
AMEBについては別記事で紹介するとして、ここでは「アイステッドフォッド」について説明します。
アイステッドフォッドとは?
もとはウェールズの代表的文化で、毎年開催される「芸術家(詩人と音楽家など)の集い、フェスティバル、大会」にあたります。
これがオーストラリアの文化にも取り入れられ、詩、スピーチ、歌、ダンス、演技、楽器演奏などの【舞台芸術コンテスト】です。
1つのエントリーに対して料金はだいたいソロ分野で$10〜$15、グループで$20位。
全ての演技・演奏に対して審査員からのフィードバック、レポートがもらえます。
コンクールに似ているけど、大きな違いは各分野で審査員が1人だけってところと、予選とか一次通過、二次通過、そしてファイナル。。。なんてなく、誰でも参加できて1回勝負。その後に続く全国大会とかはありません。
各都市で概要、ルールも微妙に違います。
違いの1つ、審査員 (adjudicators) について言うと,例えば楽器部門ならピアノもヴァイオリンもトランペットも他の楽器ひっくるめて1人が審査するケースと、ピアノだけは”ピアノ専門の審査員”で残りの楽器は”Instrumental adjudicator”として1人が全部審査するケースもあります。
それぞれの楽器、フルート専門家とかチェロ専門家、トランペット専門家、クラシカルギター専門家などその分野の専門家が勢揃いするわけではないので、審査員の得意分野(自身が経験者である)であればもっと技術的なツッコミも入るだろうし、逆に音楽の専門家であってもその分野に精通していない場合は全体的なパフォーマンス評価になる可能性もなきにしもあらず。
コンクールだと審査員はもちろんその分野の専門家であり、しかも数人の審査員で評価されるので1人に左右されることはないですね。
となると、いったいこのアイステッドフォッドって何の目的、メリットがあるの?って自分で突っ込みます。
開催目的は?
そこで、オフィシャルサイトで説明されている内容を拝借します。
この競技会に参加することでアーティストは芸術的スキルが向上するだけでなく、自信、落ち着き、献身、自尊心などが身につき、後々地域社会に通じるスキルも得られます。
The artists benefit via competition, not only are their artistic skills improved, but also confidence, poise, commitment and self-esteem, skills which they will later take into the community with them.
引用元:Association of Eisteddfod Societies of Australia Inc
要は、舞台にたって人前で演奏をすることで自信をつけ、更に審査員からのフィードバックをもとに自分のスキルに磨きをかけていく!
【人前で演奏をして自信をつける】という点では、習っている先生の”身内発表会”もそうですね。
それよりももっと多くの観客の前、そして審査員の前で演奏をして評価が下される、コンクールまで規模は大きくないけど度胸試しになります。
ただ、アイステッドフォッドはその主催地の規模(都市の大きさ・人口)によって出場者数に差があるので、同じ1位でもその部門にたった5人だけの参加数と20人では価値が違ってくる。。。どういうことかと言うと、
参加数が少ない中での1位の得点が87点。一方の激戦区では同じ87点でも入賞できないケースあり。要は人口の多いところほど参加者数も多く、入賞確率も低くなるのは当然です。
なので、アイステッドフォッドで1位とったからって「〇〇コンクール入賞」みたいに履歴書に堂々と書けるほどまでは効力を持っていないのが事実です。(それでも実績として奨学金制度などには有効です)
とはいえ、コンクールほど敷居が高くなくて一般の人の前(ほとんどは身内が観客ですが)でステージにあがって演奏・演技ができる、しかも審査員からのフィードバックがもらえると言う点で、たくさんの先生たちは生徒たちの背中を押しているようです。
どんなふうな内容か?
地域によって多少プログラムの構成やルールは違いますが、ほとんどが学童向けで「年齢別」に設定されています。
プログラム内容
例えば、ヴァイオリンのソロ部門。
下記のように年齢別、かつ演奏時間の制限も設定されている場合があります。
また、大人も参加できるようにオープンセクション(年齢制限なし)があります。
あるいは、学校所属のコンサートバンドや管弦楽団、更にはコミュニティグループのオーケストラなど多数部門が設定されています。
審査員(Adjudicator)と賞
前述しましたが、審査員は各分野(ダンス、楽器など)につき1人。
これが、コンクールとの大きな違いの1つです。
つまり、1人の審査員の判断・基準に全て委ねられる。。。
まっ、1人ってことはよっぽどの酷評家やすごい判断基準の特殊な審査員がやってくる確率も少ない?(と思いきや8年目にして遭遇しました。記事はあとで)
Prize(競争の結果、獲得する賞)
1位から3位まであり、また上位3位までに入賞はしなくとも審査員が特別に与える「Highly commended certificate」うまく訳せないけど「審査員高評価賞」もあります。
その部門によって賞の内容も違いますが、ほとんどの学童向け(年齢部門)は1位から3位までメダルだったりトロフィー授与が多く、年齢が上になると「賞金」をもらえる場合もあります。
年齢制限なしのオープンセクションは賞金の場合がほとんど。
繰り返しますが、入賞しなくても全ての演奏・演技者に審査員からの得点表かつフィードバックレポートがもらえます。
Awards(その功績や業績に対して選考されて授与される名誉ある賞)
各部門のコンテストが全て終了すると、“Instrumenal Award” とか “Pianoforte Award” と呼ばれる”授賞式”があります。
アイステッドフォッドは、寄付金で成り立っていることもあり、各都市の規模によって或いは開催年よって用意されている賞の数や内容が若干違います。
「Most Outstanding Instrumentalist 〇Years and under(○才以下 最優秀演奏者賞)」とか、
「Most deserving of Encouragement Award ○Years and Under(○歳以下 最高賞賛賞)」とか、
他には、ある3種目出場で最高得点者に与えられる賞とか。。。
(↑この賞を獲得するが為にあえてその種目全てにエントリーする(させる)先生もいます。)
『Bursaries』と呼ばれる「奨学金」』としての賞金もあります。
もちろん1位をたくさん取得した子が選考されますが、例え凄い高得点を取得してもエントリー数が少ないと、2位とか3位とかでもたくさんの種目に出場した子に功績が与えられるケースもあるようです。
これもあって、アイステッドフォッド命の先生や親、その子供たちは「受賞ねらい」で多種目に参加している場合も見られます。
申し込みから開催までの流れ
1.申し込み
申し込み・支払いは開催日の約3ヶ月前が多いです。
各主催地のアイステッドフォッドのホームページからオンラインで申し込みます。
申し込み期限以降の受付は絶対許してくれません。
穏やかなオーストラリアだけど、これだけは本当に厳しい様子。
この時点で、とにかく出場しようがしまいがあらゆる可能性のある部門にエントリーをしておく先生や親もたくさんいます。(もちろん参加費かかります)
なぜなら、ここでエントリーしておかないと大会間近になって「あー、この部門にも参加したい」と思ってももう手遅れ。
特に今の都市で感じたのが、ピアノに限っては前述しましたが「アイステッドフォッド命」の先生や親、子供が結構いて、1人で10部門以上エントリーしていることも。。。
そしてそのほとんどが中国出身の家族の子供たち。
親も先生も力入ってます。やっぱりアジア圏のピアノをはじめとした楽器の習い事の家族のサポート力ってオーストラリアの家庭に比べて断然強い気がします。
とは言え、ここで会う人達は今のところ、子供をサポートすると言う点でとても共通点があり、競争相手というよりはお互いの成長を見守り、意見交換する場にもなっています。
エントリー時の注意点
間違えてエントリーすると返金してもらえません。
ルールを無茶苦茶しっかり一読する必要ありです。
例えば、年齢制限に厳しいところと寛容なところの違い。
寛容な都市では自分の年齢より下は不可だけど、それ以上は年齢制限なしでOK。
子供の年齢が12歳、でもレベルが高く年上の部門で力試しをしたい!ってことで14歳以下とか16歳以下とかにエントリーすることが許可されているケース。
逆に例え通常年齢のレベルより上でもっと高い年齢層部門で競技したい!とかオープンセクションで!と思っても必ずまず自身の年齢部門にエントリーしないとそれ以上の年齢部門、オープンセクションの参加を認めてくれないところも有り。
事務局は超多忙なので、間違いに気付くのが応募締め切りの後だったり、逆に締め切り前であって修正が可能でも返金はしてくれないケースがほとんどです。
ルールをしっかり読んで、習っている先生にも確認して、それでも不安なら直接事務局に質問した方が安心です。
2.プログラム完成
全ての部門のプログラム日程が完成するのが大会の3〜4週間前です。
ホームページで閲覧、コピーできます。
プログラムはホームページからダウンロードできるケースがほとんどですが、手元に1冊購入したい場合は事前予約できたり、大会当日に会場で購入することも出来ます。
プログラムが出来上がった時点でエントリーした自分の子供の日程をチェック、ここでその部門に参加している競技者数と名前も見れます。
3.大会前の準備・提出物
1.楽譜のコピー
審査員による査定の為に、親(先生の場合も)は、子供が弾く自由選択曲を全てコピーします。
2.自由選択曲の説明付箋
更に大会事務局の用意した「Own Choice Material Form(tags)」にそれぞれ必要事項(部門名と番号、競技者名と番号、曲名、作曲家名など)を記入して、コピーした曲に添付します。
(用紙はホームページからダウンロード)
3.著作権表示用紙
もう1つ、「Music Copyright Declaration form 著作権表示用紙」にも必要事項を記入して提出します。(演奏者名、大会名、曲名、作曲家、出版社)
これらの提出先、提出日は地域によって違います。大会の数週間前に事務局に持参する場合や、大会当日に持参する場合もあります。
これも指定期限を守らないと出場失格になるので、ルールをしっかり読む必要があります。まっ、先生がしっかりフォローしてくれるはず。。。
大会当日
そしていよいよ迎えた大会当日!
入場料
演奏者は会場入場料はかかりません。
聴衆者である親は、ステージでの演奏を聴くのに「入場料(聴衆料)」がかかります。
チケットの購入場所は、地域ごともしくは開催会場ごとに違います。
⭐️他のコンサートも実施しているようなシアタータイプでは、「チケット売り場」があるのでそこで購入。
⭐️地域のコミュニティホールとか、音楽学院のステージでの開催だと入り口近くにアイステッドフォッドのための「受付」を仮設しています。
そこで演奏者のチェックイン、更にチケットもそこで購入するケースが多いです。
演奏者チェックイン
演奏者は、エントリーした部門の開始30分前までに、受付でチェックインする必要があります。(地域によって違いあり)
さてチェックインについてですが、これまた地域によってやり方が違うのですが、ある都市では、1段階方式で1つの受付デスクでエントリーしている部門(名前と演奏部門名を告げる。)チェックイン。
後は、自身が参加する部門名が呼ばれる(アナウンスされる)まで会場で親と一緒に他の子たちの演奏を聞いたり、あるいは控室が必ずあるのでそこで先生と打ち合わせしたり。。。
2段階方式をとっているところもあります。
①まずステージ外の会場受付で「部門参加会場入り」のチェックイン。
②次にステージ内で司会者に「次のプログラムの演奏者、ちゃんと待機してますよ!」を知らせるチェックイン。
いずれもそこに行けばその流れとか、必ず教えてくれる人がいます。
熱心な先生はよほどの理由がない限り、生徒や親たちと一緒にいると思うので心配はいりません。
競技の進め方
演技・演奏者たちは自分の番がくるまで、ステージ裏もしくは客席の前列で待機します。(それぞれ司会者、運営者側が指示)
①司会者が競技者番号と曲名、作曲家名を案内。
②競技者はステージへ。客席に向かって一礼をする。
審査員は上階の客席に特別に設置された審査員席にいることが多いです。
③審査員がOKサイン(ベルを鳴らす場合あり)を出したら演奏開始。
④演奏終了後、客席に向かってまた一礼。退場する。
⑤審査員は演奏終了後も査定用紙に記入しているケースがほとんど。
(1〜2分位かかっている)
⑥次の演技・演奏者の査定準備が整い次第、司会者に合図をしている。(ベルを鳴らす場合が多い)
⑦司会者は次の競技者番号、曲名と作曲家名をアナウンス。
以降、全ての競技者のパフォーマンスが終了するまでこの繰り返し。
⑧全競技者終了後、審査員が得点を確認。(審査中)
審査員による全体的なコメントと1位から3位入賞者、特別高評価賞者の発表がある。
呼ばれたらステージ上にたち、拍手を受ける!
(小さな会場や、小規模な場合はここでトロフィーやメダルを授与される。)
⑨その部門終了後、会場受付で「フィードバックレポート」を受け取る。
入賞者はここでトロフィーやメダル、賞金を受け取る場合が多いです。
ってな流れです。
多種目に渡ってエントリーしている場合、この流れを繰り返します。
全ての分野のプログラム終了後に、前述しました「Awardsー授賞式」があって受賞者には前もって通知があります。
授賞式の後は、それぞれ子供同士、親同士、先生たちも含めて健闘を讃えあい、また来年会いましょう!って挨拶して幕を閉じます。
まとめ
アイステッドフォッドは、小さな田舎町では開催されません。
その場合は、一番近い都市を選んで出場します。
最初に述べましたが今の年に引っ越すまで「ど田舎」に住んでいたため、初参加のyear1の5〜6歳から5年間は車で約2時間以上かかる都市まで泊まりがけで行ってました。
スケジュールによっては日帰りも可能でしたが、連続日がほとんどだったので宿泊して「ピアノ部門出場」の場合は部屋に練習のためにキーボード持参で頑張った思い出があります。
同じホテルに習っている先生の他の生徒たちとその家族とも遭遇して、一緒に応援し合ったものです。
先生主催の身内発表会でも、人前でのパフォーマンス経験が身につきます。
更に一歩進んで、アイステッドフォッドに参加することで、他の先生の生徒たちやいろんな年齢層の競技者演奏も聴くことができ、自分の立ち位置も理解できます。
さらに、審査員からのフィードバックがもらえるのでスキルをもっと磨くことができる!(たとえ辛口コメントでも経験になる)
我が息子の場合は、アイステッドフォッドの後にいつもグレーディング(試験)を控えているので、試験前の予備練習も大きな目的の1つです。
課題もあると思っています。
それについてはまた別記事で取り上げますが、パフォーマンスが好きな子はもちろん、まだ緊張とかしない小さい頃から参加することで「人前で演奏するのが当たり前」って感じにしてあげるチャンスにもなります。