創世記14章に書かれている「アブラハム、ロトの救出」について、同じく日英対訳で紹介します。
前回の内容(創世記12章ー13章)は、「アブラハムの神との契約」に始まる ”ウルからカナン地方への移動” と ”飢饉によるエジプト移動”、更に出エジプト後の ”甥っ子ロトとの別れ” でした。(下記の記事で詳細を説明しています。)
今回は、それに続く14章です。
アブラハムと別れた後のロトは「ソドム」近くにテントをはって暮らしていました。
(アブラハムは青マーク「ヘブロン」に、甥っ子のロトは、赤マークの「ソドム」辺りに住みつきました。)
14章は、お互い別れて暮らした後の出来事です。
聖書に書かれた内容をざっと要約すると、ソドム付近に住んでいたアブラハムの甥っ子ロトは、「メソポタミアの王達」と、自分が住んでいる「カナン地方の王達」との戦いに巻き込まれて、敵国の捕虜になってしまい、アブラハムが彼を救出すると言う話です。
非常にややこしい”王様の名前”やら”地名”がこれでもか!って位、わんさか登場します。
しかも地理が頭に入ってこないとしんどいです。(私はそうでした。)
なので、イラスト地図付きで説明します。
王たちの戦いの背景
この「メソポタミアの王たち」と「カナン地方の王たち」の戦いは、
”War of Nine Kings(9人の王たちの戦い)”とか、
戦闘地に因んで
”The Battle of the Vale of Siddim(シデム谷の戦い)”
と言われています。
まず、舞台となる位置関係を確認します。
古代オリエントの地図
紀元前2000年ごろのオリエントの主な文明圏と言えば、「エジプト」と、あのチグリス川とユーフラテス川沿いの「メソポタミア」でした。
その中間に位置するのが「アブラハム」が神と契約した「約束の地カナン」です。
カナン地方は東西の物が行き交う「通商」で栄えたと言われています。
メソポタミアの4人の王たち
紀元前2000年ごろのアブラハムの時は、メソポタミアの王たちが強い時代で、特に強力な都市国家が4つありました。
その地名と王の名は、
①シヌアル(現イラク)のアムラペル王
②エラサル(後のアッシリア付近)のアリオツ王
③ゴイム(現場所は不明)のテダル王
④エラム(現イラン付近)のケダラオメル王
この内の④のエラムの「ケダラオメル王」が、カナン地方の5つの都市国家を奴属にして貢ぎを取り立てていたのです。
カナン地方の5つの王たち
一方、カナン地方の死海南端にある5つの国家と王様は、
(左の地図の赤丸辺り)
1.ソドムのベラ王
2.ゴモラのビルシャ王
3.ゾアルのベラ王
4.アデマのシナブ王
5.ゼボイムのセメベル王
アブラハムと別れた後、ロトと家族一行は「ソドム」付近に天幕(テント)をはっていましたが、この時には付近ではなく、悪い噂の「ソドムの町」に住んでいました。
徐々に、遊牧のテント生活や神への信仰よりも、好き放題やっている「ソドムの町」への生活に惹かれていったのです。
カナン地方死海南端の5人の王たちの1人は、ロトの住む町、「ソドムの王」でした。
その「ソドムの王」を含めて彼らは、この「ケダラオメル王」に対して遂に反抗したのです。
つまりもう貢物をしない、奴属からの独立を求めたのです。
王たちの戦い
ざっと背景を理解したところで、いよいよ創世記14章を引用して説明します。
まずは、先ほど紹介したメソポタミアの王たちの名が登場します。(創世記14章1節)
1.シナルの王アムラペル、エラサルの王アリオク、エラムの王ケダラオメルおよびゴイムの王テダルの世に、
1. At the time when Amraphel was king of Shinar,Arioch king of Ellasar, Kedorlaomer king of Elam and Tidal king of Goyim,
続いて、奴属側で貢物をさせられていた「カナン死海地方の王たち」の名が登場します。(2節)
2 これらの王はソドムの王ベラ、ゴモラの王ビルシャ、アデマの王シナブ、ゼボイムの王セメベル、およびベラすなわちゾアルの王と戦った。
2 these kings went to war against Bera king of Sodom, Birsha king of Gomorrah, Shinab king of Admah, Shemeber king of Zeboyim, and the king of Bela (that is, Zoar).3 これら五人の王はみな同盟してシデムの谷、すなわち塩の海に向かって行った。
3 All these latter kings joined forces in the Valley of Siddim (that is, the Dead Sea Valley).
4 すなわち彼らは十二年の間ケダラオメルに仕えたが、十三年目にそむいた。
4 For twelve years they had been subject to Kedorlaomer, but in the thirteenth year they rebelled.
4人メソポタミア王連合軍 VS 5人カナン地方王連合軍
ここから「メソポタミアの4人の王たち連合軍」がカナン地方に攻めて行く様子が書かれています。
今度は場所の名前が一杯登場します。もう頭が痛くなります。
なので、地図を添付しました。
シデム谷の戦い:The battle of the vale of Siddim
図に番号を振ったので、それを元に位置を確認してください。
5. 十四年目にケダラオメルは彼と連合した王たちと共にきて、アシタロテ・カルナイム(1)レパイムびとを、ハムでズジびとを(2)、シャベ・キリアタイムで(3)エミびとを撃ち、
5 In the fourteenth year, Kedorlaomer and the kings allied with him went out and defeated the Rephaites in Ashteroth Karnaim, the Zuzites in Ham, the Emites in Shaveh Kiriathaim
6 セイルの山地(4)でホリびとを撃って、荒野のほとりにあるエル・パラン(5)に及んだ。
6 and the Horites in the hill country of Seir, as far as El Paran near the desert.
7 彼らは引き返してエン・ミシパテすなわちカデシ(6)へ行って、アマレクびとの国をことごとく撃ち、またハザゾン・タマル(7)に住むアモリびとをも撃った。
7 Then they turned back and went to En Mishpat (that is, Kadesh),and they conquered the whole territory of the Amalekites, as well as the Amorites who were living in Hazezon Tamar.
4人の王軍団は、いよいよ「シデムの谷の戦い(The Battle of the Vale of Siddim)」と呼ばれる場所までやって来ました。
下図の❌の所です。
8 そこでソドムの王、ゴモラの王、アデマの王、ゼボイムの王およびベラすなわちゾアルの王は出てシデムの谷で彼らに向かい、戦いの陣をしいた。
8 Then the king of Sodom, the king of Gomorrah, the king of Admah, the king of Zeboyim and the king of Bela (that is, Zoar) marched out and drew up their battle lines in the Valley of Siddim.
9 すなわちエラムの王ケダラオメル、ゴイムの王テダル、シナルの王アムラペル、エラサルの王アリオクの四人の王に対する五人の王であった。
9 against Kedorlaomer king of Elam, Tidal king of Goyim, Amraphel king of Shinar and Arioch king of Ellasar—four kings against five.
10 シデムの谷にはアスファルトの穴が多かったので、ソドムの王とゴモラの王は逃げてそこに落ちたが、残りの者は山にのがれた。
10 Now the Valley of Siddimwas full of tar pits, and when the kings of Sodom and Gomorrah fled, some of the men fell into them and the rest fled to the hills.
要するに、カナン死海南端地方の王達は逃げた訳です。
しかも「ソドムの王ベラ」と「ゴモラの王ビルシャ」は、落ちた穴に隠れて、自分達の民を置き去りにしてしまった。。。
アブラハムのロト救出 : Abraham rescues Lot
次に、アブラハムの甥っ子ロトが捕虜になる様子が書かれています。
11 そこで彼らはソドムとゴモラの財産と食料とをことごとく奪って去り、
11 The four kings seized all the goods of Sodom and Gomorrah and all their food; then they went away.12 またソドムに住んでいたアブラムの弟の子ロトとその財産を奪って去った。
12 They also carried off Abram’s nephew Lot and his possessions, since he was living in Sodom
ところが、幸運にも逃げ出した1人がアブラハムの元へやって来て、事態を伝えます。
13. 時に、ひとりの人がのがれてきて、ヘブルびとアブラムに告げた。この時アブラムはエシコルの兄弟、またアネルの兄弟であるアモリびとマムレのテレビンの木のかたわらに住んでいた。彼らはアブラムと同盟していた。
13 A man who had escaped came and reported this to Abram the Hebrew. Now Abram was living near the great trees of Mamre the Amorite, a brother of Eshkol and Aner, all of whom were allied with Abram.
上記の文で「同盟していた」とは何の事か言うと、アブラハムは、この時マムレの林の中で過していましたが、その”マムレ”と言うのが「所有者」の名前。つまりアブラハムは、そこで土地を所有していたのではなく、あくまでも寄留者として滞在していました。
エシコル、マムレ、アネルの3人は、アブラハムの住む土地(アモリの平原)の支配者であり、そこで平穏に暮らすために同盟(お互い窮地に陥ったら助けあう)を結んでいました。
さて、ロトが捕虜になった事を知ったアブラハム。
同盟を組んでいた3人と強力して「救出作戦」に出ます。
14 アブラムは身内の者が捕虜になったのを聞き、訓練した家の子三百十八人を引き連れてダンまで追って行き、(図⬆︎)
14 When Abram heard that his relative had been taken captive, he called out the 318 trained men born in his household and went in pursuit as far as Dan.
15 そのしもべたちを分けて、夜彼らを攻め(図❎印)、これを撃ってダマスコの北、ホバまで彼らを追った。
15 During the night Abram divided his men to attack them and he routed them, pursuing them as far as Hobah, north of Damascus.
16 そして彼はすべての財産を取り返し、また身内の者ロトとその財産および女たちと民とを取り返した。
16 He recovered all the goods and brought back his relative Lot and his possessions, together with the women and the other people.
すごいです。敵の数はアブラハム率いる人たちよりも遥かに上回っていたはず。
勝利の要因は、神の力を信じた事はもちろんながら、
「敵が油断し、混乱しやすい夜に攻撃した事!」
「味方を分割し、複数の方向から攻撃した事!」
と言われています。
サレム(現エルサレム)で会った二人の王
メソポタミアの王たちを追い払い、アブラハムはロトと捕虜になっていた人たちや奪われた全ての物を救出し、彼らを引き連れて戻ります。
左図の右上ホバから下矢印⬇︎が戻った経路と言われています。
●印のサレム(現イスラエル)の北側にある「シャべの谷」(サレムの北側)で二人の王に会うことになります。
一人は「サレムの王」であり、「神の祭司」でもある【メルキゼデク】と、もう一人はロトが住んでいる「ソドムの王」の【ベラ】です。
「ソドムの王ベラ」そう、あの王です。自分は穴に隠れて助かり、置き去りにした民を敵の捕虜にした自己中&邪悪な王、ベラです。
アブラハムが勝利したことを聞いてやって来たのです。
その時の様子が描かれた絵がこちらです。
The Meeting of Abraham and Melchizedek/anonymous:アムステルダム美術館
この絵の中に、ベラと思われる王冠をかぶった人物がいるんです。
聖書に書かれている内容と照らし合わせます。
17 アブラムがケダラオメルとその連合の王たちを撃ち破って帰った時、ソドムの王はシャベの谷、すなわち王の谷に出て彼を迎えた。
17 After Abram returned from defeating Kedorlaomerand the kings allied with him, the king of Sodom came out to meet him in the Valley of Shaveh (that is, the King’s Valley)18 その時、サレムの王メルキゼデクはパンとぶどう酒とを持ってきた。彼はいと高き神の祭司である。
18 Then Melchizedek king of Salem brought out bread and wine. He was priest of God Most High.
メルキゼデク:「平和と義の王」「いと高き神の祭司」
それでは二人の王の間で何が対照的なのか、書かれている内容を見てみます。
まず、18節に書かれている「サレムの王、メルキゼデク」です。
彼は、パンと葡萄酒を持ってきてアブラハムを「祝祷」します。
19 彼はアブラムを祝福して言った、「願わくは天地の主なるいと高き神が、アブラムを祝福されるように,
19 and he blessed Abram, saying,“Blessed be Abram by God Most High, Creator of heaven and earth,20 願わくはあなたの敵をあなたの手に渡されたいと高き神があがめられるように」。アブラムは彼にすべての物の十分の一を贈った。
20 And praise be to God Most High,who delivered your enemies into your hand.” Then Abram gave him a tenth of everything.
このように、メルキゼデクの目的は「アブラハムと神を祝福すること」でした。
それを受けて、アブラハムは彼に戦利品の十分の1を贈ります。
これは、感謝を見える形で現わすための”献金”であり、神に忠誠を誓うことでした。
ベラ:「邪悪なソドムの町の王」
続いて「ソドムの王:ベラ」です。
彼がアブラハムに逢いに来た目的は?
聖書に書かれている内容はこれです。
21ソドムの王はアブラムに、「人はわたしにお返しください。しかし、財産はお取りください」と言ったが、
21 The king of Sodom said to Abram, “Give me the people and keep the goods for yourself.”
22 アブラムはソドムの王に言った。「わたしは、天地の造り主、いと高き神、主に手を上げて誓います。
22 But Abram said to the king of Sodom, “With raised hand I have sworn an oath to the Lord, God Most High, Creator of heaven and earth,23 あなたの物は、たとえ糸一筋、靴ひも一本でも、決していただきません。『アブラムを裕福にしたのは、このわたしだ』と、あなたに言われたくありません。
23 that I will accept nothing belonging to you, not even a thread or the strap of a sandal, so that you will never be able to say, ‘I made Abram rich.’24 わたしは何も要りません。ただ、若い者たちが食べたものと、わたしと共に戦った人々、すなわち、アネルとエシュコルとマムレの分は別です。彼らには分け前を取らせてください。」
24I will accept nothing but what my men have eaten and the share that belongs to the men who went with me—to Aner, Eshkol and Mamre. Let them have their share.”
邪悪な王、ベラは「感謝の言葉」どころか「取引」しにやって来ました。
その取引というのが「戦利品」と引き換えに「人」。
(困った。。。大事な収入源(税金)の人がいなくなった。
そうだ!アブラハムに戦利品を受け取らせて、代わりに彼から人を取り戻そう。税金源を取り戻し、アブラハムをリッチにしてやった有名人物になれる。一石二鳥だ!)
と考えたと言われています。
そもそも、あんたは逃げただろ!
アブラハムに財産はそのままキープして、、、って、あんたの取り分はないんだよ!って話です。
アブラハムは、「メルキゼデク王かつ祭司」には十分の一の献金として戦利品を渡したのに対し、逆に「ソドムの王」から「取っておけ」と言われた物は全て拒否しました。
理由は、アブラハムが戦った目的は「メソポタミアの王軍団をやっつける事」が最優先ではなく、「甥っ子ロトを救出する事」だったからです。
戦利品獲得が目的ではないのです。
さて、せっかくアブラハムが命懸けで救出した甥っ子のロトですが、この後、再びソドムの町に戻り、次第にソドムにすっかり浸ってしまいます。
やがてロトは「門」(市の公民館)に座って市政にさえ携わり、悪の文化に完全に参加してしまいます。
男色、性の乱行を始め、乱れに乱れ切ってしまった「ソドム」と「ゴモラ」の町は最後には神の逆鱗に触れて「滅亡の日」がやってきます。