オーストラリアも日本のように毎年「オーストラリアン・オブ・ザ・イヤー賞」という国民栄誉賞 が国民に与えられます。
各分野で卓越した業績や、コミュニティ活動、国家への貢献、そして人々にインスピレーションを与えるロールモデルとしての活動を基準に選出されます。
2022年は、ゴールデンスラム達成の人気スターである車椅子テニスプレーヤー、Dylan Alcott(ディランオルコット) が受賞しました。
身体障害者として初の受賞。何が人々に感動を与えたか?ってそれはもう彼のスピーチ。
「生きる姿勢」と「身体障害者の人たちが活躍できる世の中に変えていく強い行動力と発信力」は、障害を持つ人、持たない人ともにドカーン!と心に響き渡りました。
私はテレビを見ていて非常に感動したので、再びそのスピーチを聞きたいと思い、元々は「英語の訓練に!」にと自身のリスニングとリーディング、ディクテーションに取り組んでいたのですが、せっかくなら記事に残そう!と思い立ったのです。
1番ググっときたセリフは今回最も紹介したいフレーズ、
Leave your negative perceptions at the door!
(否定的認識を持ち込むな)
Leave (something) at the door・〜を持ち込むな
「〜を持ち込むな」の〜に当たる部分に「エゴ」とか「感情」を置いたフレーズも使われています。
エゴを持ち込むな
Leave your ego at the door.
感情を持ち込むな
Leave your emotion at the door.
さて、彼のスピーチに戻ります。
このフレーズ以外にも本当にジーンとくるメッセージがたくさんあります。
彼の”スピーチの記事”を動画と共に紹介するので英語学習されてる方は、ぜひ生の英語スピーチを英語のまま感じとってみて下さいね。
これまでの経緯や感謝の言葉
スピーチの内容と和訳です。
よく会話で登場するフレーズは太字、黄色のマーカーにしました。
“I’ve been in a wheelchair my whole life.
I was born with a tumor wrapped around my spinal cord that was cut out
when I was only a couple of days old.
「僕は一生車椅子に乗っています。僕は、脊髄に腫瘍が巻き付いた状態で生まれた為、生まれてほんの数日で切り取られてしまいました。」
“I’ve known nothing but having a disability, and if I’m honest with you,
I can’t tell you how much I used to hate myself.
「僕はただ障害を持っているとしか知りませんでした、そして正直言うと、どれほど自分自身を憎んでいたか言葉にできません。」
“I used to hate having a disability. I hated it so much, I hated being different
and I didn’t want to be here anymore. I really didn’t.
「僕は障害を持っているのを憎んでいました。とても嫌いでした。僕は違っていることを嫌い、もうここにいたくなかった。本当に。」
“Whenever I turned on the TV, or the radio or the newspaper,
I never saw anybody like me.
「僕がテレビをつけるといつでも、ラジオや新聞でもそうだけど、自分のような人を見たことがありませんでした。」
“And whenever I did, it was a road safety ad where someone drink drives,
has a car accident and what’s the next scene?
Someone like me in tears because their life was over.
「そして、そうした時(テレビつけたり)はいつでも誰かが飲酒運転して自動車事故を起こす交通安全広告だったんです、それで次のシーンは?って言うと、、、
僕のような誰かが涙を流しているんです、彼らの人生がもう終わったから。」
“And I thought to myself, ‘that’s not my life’,
but I believed that was going to be my life.
“And I’m so lucky that I had one of the best family, some of the best friends,
my beautiful partner Chantelle and my whole team who told me that I was
worthy and that I was allowed to be loved.
「 『そんなの僕の人生じゃない』と心の中で思いましたが、僕の人生になるんだと確信しました。
そして僕はとても幸運で、最高の家族の一員であり、最高の友達や、僕の美しいパートナーのシャンテルがいてくれる、そして僕の仲間みんなが言ってくれたんです。僕には価値がある、愛されていいんだって。」
“And when I reached the end of my teenage years,
I started seeing people like me.
“Paralympic athletes like Louise Sauvage, Kurt Fearnley, Danni Di Toro,
people that are the reason that I got into sport, advocates like Stella Young,
they paved the way so I can be here tonight.
「そして、10代の終わりに達したとき、僕のような人々に会い始めました。
僕がスポーツを始めた理由である人たちルイーズ・ソヴァージュ、カート・ファーンリー、ダニエラ・ディトーロなどのパラリンピックアスリート達、ステラヤングのような主張者は、今夜僕がここにいることができるように道を開いてくれました。
“They should have been Australian of the Year as well.
And I’m honestly so honored to be up here and it’s because of them
and everybody in my life that I sit here as a proud man with a disability tonight.
彼らも同様にオーストラリアン・オブ・ザ・イヤー賞に輝くべきだったはずです。
ここに来られて本当に光栄です。彼らや、僕の人生における全ての人たちのお陰で今夜障害を持った誇り高き男としてここに座っていることができます。
僕は僕の生涯を愛しています。今まで起きた中で最高の事です。本当に。そして生きる事ができる人生にとても感謝しています。
引用元:
‘My purpose is changing perceptions’
: Australian of the Year Dylan Alcott’s speech in full
「私の目的は認識を変えることです」:オーストラリアン・オブ・ザ・イヤーのディラン・オルコットのスピーチより/ABCnews
ここまででも充分障害を持ちながら前向きに生きるメッセージが伝わりますが、もっと彼の訴えたいことが次のスピーチで伝わります。
それは「障害者がもっと普通に生きられるように”認識”を変えること」
私の目的は認識を変えること。
現状は?
“I get sent stem cell research on all this stuff and you can honestly not pay me
enough money in the whole world to ever do it, because I love the person that
I am and the life I get to live and I’m the luckiest guy in this country, easily.
僕のところにこれら全てに関する幹細胞調査が送られてきます。そして世界中からお金を得るとしても僕はしたくないんです。何故なら僕は僕であること、そして生きることが出来る人生を愛しているから。僕は断然この国で最も幸運な奴なんです。
“But I know for the 4.5 million people in this country, one in five people that
have a physical or non-physical disability, they don’t feel the same way that
I do and it’s not their fault.
「でもこの国の450万人、身体障害または非身体障害のある人の5人に1人は、僕と同じように感じておらず、それは彼らのせいではありません。」
引用元:
‘My purpose is changing perceptions’
: Australian of the Year Dylan Alcott’s speech in full
「私の目的は認識を変えることです」:オーストラリアン・オブ・ザ・イヤーのディラン・オルコットのスピーチより/ABCnews
ここでちょっと訳が難しかった文章表現。
最初の
“you can honestly not pay me enough money in the whole world to ever do it,”
これ、直訳的に訳すと「あなたは実際、充分なお金など僕に払えないんです。世界中のお金だとしてもね。」って感じ。
最初、私は
“you can honestly not pay me enough money”
「実際、あなたは私に充分なお金を支払えない」
↓ つまり。。。
「もっと支払われるべき」って訴えたいのか?
と困惑しました。
でもその後に続く文が
because I love the person that I am and the life I get to live and I’m the luckiest guy in this country, easily.
「何故なら僕は僕という人間、そして生きられる人生を愛しているし、断然この国で最高に幸運な男だから。」
「あなたは十分なお金を支払えない、なぜなら僕は僕という人間を愛しているから。」
な、何を訴えたいんだろう。。。?
私のレベルではもう頭が爆発しそうだ。
夫と息子に聞きました。
そして分かりやすく説明してもらいました。
It’s not enough money for him to take part in the research, even if they pay all the money in the world.
(例え彼ら(研究者)が世界中のお金を支払うとしても彼にとっては調査(研究)に参加するのに充分なお金ではない。)
He still doesn’t want to do it, even if they pay all money in the world, because he loves the way he is.
(彼はそれでも(世界中のお金を得ようとも)やりたくない、彼は彼の在り方を愛しているから。
つまり、「お金」とは比較できない位、自分の存在を愛していると言うことです。
我々がやるべきこと
“But it’s up to all of us to do things so they can get out and be proud of their
disability as well and be the people that they want to be.
「しかし、彼らが外に出て自分の障害を誇りに思うことができ、彼らがなりたい人になることができるようにするのは僕たち全員の責任(義務)です。」
“We’ve got to fund the NDIS, first and foremost, and listen to people with lived
experience and ask them what they need so they can get out and start living the
lives they want to live and remind ourselves that it is an investment in people
with disabilities, so they can get off pensions and start paying taxes, just like their
carers and their family members as well.
「僕たちは何よりもまずNDIS(The National Disability Insurance Scheme)に資金を提供し、経験を持つ人々の話を聞き、彼らが脱出できて人生を生き始めることができるように彼らに何が必要かを尋ねるんです。そしてそれが障害者への投資であることを留意するべきなんです。 障害のある人は、年金受給をやめて彼らの介護者や家族と同じように税金を払い始めることができるんですから。」
“We’ve got to keep improving more employment opportunities for people with a
disability as well.
Of those 4.5 million people, only 54 percent of them are involved in the workforce.
「僕たちは、障害を持つ人々の雇用機会をさらに改善し続ける必要があります。それらの450万人のうち、54パーセントだけが労働に関与しています。」
“The unemployment rate is double that of able-bodied people. Both figures haven’t moved in 30 years.
「失業率は健常者の2倍です。どちらの数字も30年も動いていません。」
“And, guess what?
We’re not just ready to work, we’re ready to take your jobs, alright? We are coming. We are coming. But we’ve got to get those opportunities.
「聞いてくださいよ、僕たちはただ働く準備ができているだけでなく、あなたの仕事を引き受ける準備ができてるってことなんですよ。僕たちはやって来ますよ。僕たちはやって来てるんです。でも僕たちはそれらの機会を得る必要がありんです。」
引用元:
‘My purpose is changing perceptions’
: Australian of the Year Dylan Alcott’s speech in full
「私の目的は認識を変えることです」:オーストラリアン・オブ・ザ・イヤーのディラン・オルコットのスピーチより/ABCnews
何だか自分がいかにぬるま湯に浸り続けていたか。。。
海外で暮らす以上、言葉の壁はついて回るものの、不自由なく動かせる体を手に入れている自分はもっとチャレンジしたり貢献できることが多々あるはずなんだと。。。
逆に「伝える力」を身につける重要性も痛感した筆者であります。
最後に本当に彼が言いたい、伝えたかった内容のスピーチを紹介します。
彼のメッセージは健常者へ突きささった
“Before I go, I want to leave you with this — one of the number one questions I get asked by people is ‘Dyl, mate, what is your advice to a young person with a
disability or anyone with a disability so they can start living their life?’
「去る前に、これを言い残しておきたいと思います。僕が人々から尋ねられる一番の質問の1つは、「ディル、障害のある若い人や障害を持つ誰かが彼らの人生を始められるようにするためのアドバイスは何ですか」です。」
“And my advice is this: you don’t need my advice. You know what to do, and you’ve had people telling you what do your whole life.
「そして僕のアドバイスはこれです:あなたは僕のアドバイスを必要としないよ。あなたは何をすべきかを知っています、そしてあなたの人生で何をすべきか言ってくれる人がいます。」
“My advice is to you, non-disabled people. It’s time for you to challenge your
unconscious biases, leave your negative perceptions at the door and lift your
expectation of what you think people with disability can do. Because it’s always
more than you think.
「私のアドバイスは、障害のない人たちへのアドバイスです。あなた方に無意識の偏見に立ち向かい、否定的な認識に囚われず、障害者ができると思うことへの期待を高める時が来ました。それはいつもあなたがたが思っている以上のものだからです。 」
引用元:
‘My purpose is changing perceptions’
: Australian of the Year Dylan Alcott’s speech in full
「私の目的は認識を変えることです」:オーストラリアン・オブ・ザ・イヤーのディラン・オルコットのスピーチより/ABCnews
Leave your negative perceptions at the door!
最後にもう一度紹介します。
否定的な認識に囚われるな!(持ち込むな)
という慣用句です。
これも英語を英語表現のまま受け取った方がジーンと重みのあるメッセージになるいい例ですね。
ネィティヴのスピーチから学ぶ事は、彼らの発するメッセージだけでなく英語表現もドカーン!と押し寄せます。
記事やニュースを読む事はそうそう簡単にネィティヴのようにすんなり理解できる訳ではないのです。
特にいちいち訳さないで読んだり聴くので、時に理解し切っていない内容もしばしばあります。
なので興味ある内容は、腰を据えて自分なりに和訳する時間を作るのも大事だと私は思っています。
幸い、私はネィティヴの夫や息子に分からない表現があれば聞くことができます。
とは言え、彼らは「日本語訳」を言ってくれるわけではありません。
でももっと簡単な文法に置き換えて言ってもらったり、別のわかりやすい単語に置き換えてもらったりして解釈しています。
今回のニュースでは「とにかく真摯に英語と向き合おう!」と思いました。
私が彼らのように自分の殻から抜け出すために!
そして多様性が当たり前になってきた世の中、「権利だけの主張」をしまくる人たちと「ディランの示す主張」がどれだけ違うか、本当に受け止めるべき人に届くといいな。。。